問9 性別に関係なく,ホモでなければ発現しない遺伝形式はどれか。
① 常染色体優性遺伝
② 常染色体劣性遺伝
③ 伴性優性遺伝
④ 伴性劣性遺伝
⑤ 母系遺伝
遺伝学
『遺伝』とは,親の持つ形質(体の特徴や性質)が子に受け継がれていくことを言います。これらの形質は遺伝子によって決定され,遺伝子は,細胞の核の中のDNAに保存されている。DNAはヒストンというタンパク質に巻き取られて折り重なり「染色体」を形成している。
子は,父親と母親からぞれぞれ2セットずつある染色体から半分を受け継いでいる。精細胞と卵細胞は生殖細胞といい,通常の細胞分裂と異なる方法で染色体数が半分になる『減数分裂』によって作られる細胞です。生殖細胞はもとの細胞と比べて染色体数が半分になります。この生殖細胞が受精により合体すると父親と母親の染色体を半分ずつ持った子が生まれます。
遺伝の基本法則 ~メンデルの遺伝の法則~
メンデルの法則
メンデルはエンドウを使った実験で,「メンデルの法則」という遺伝法則を発見した人です。例えば,丸形の形質を持つエンドウとしわ型の形質を持つエンドウを掛け合わせると,子は全て丸形になり,その子同士を掛け合わせると丸形としわ型の割合が約3:1になる法則を「メンデルの法則」といいます。
ちなみにメンデルの時代にはDNAや遺伝子の考え方がなかったので,なぜこのような結果になるかは分かりませんでした。
優性の法則
形質は遺伝子により決定され,遺伝子の組合せにより子に伝わる形質が決まります。このとき,子に伝わる形質を『優性形質』といい,その形質を発現する遺伝子を『優性遺伝子』といいます。反対に,子に伝わらない形質を『劣性形質』といい,その形質を発現する遺伝子を『劣性遺伝子』といいます。遺伝子は便宜上アルファベットで表現しますが,優性遺伝子を大文字のアルファベット,劣性遺伝子を小文字のアルファベットで表現します。
この優性の法則をメンデルの遺伝法則に当てはめてみるとなぜ丸形としわ型が3:1になるのかが分かります。
親(P)の丸形の遺伝子は【AA】で,しわ型の遺伝子は【aa】です。それぞれが減数分裂して出来た生殖細胞は染色体は半分になるので,丸形のエンドウから出来る生殖細胞の遺伝子は【A】,しわ型のエンドウから出来る生殖細胞は【a】となります。それぞれの生殖細胞が受精して出来た子(F1)の遺伝子はそれぞれの遺伝子を受け継ぎ【Aa】となります。このとき丸形が優性形質のため【Aa】の遺伝子の形質は丸形になります。
子(F1)の丸形のエンドウの遺伝子は【Aa】でこのF1同士の掛け合わせなので,それぞれの減数分裂で出来る生殖細胞の遺伝子は【A】と【a】の2種類になります。それぞれの掛け合わせになりますので,表の様に孫(F2)が【AA】,【Aa】,【Aa】,【aa】の4種類になります。それぞれの形質は丸形(A)が優性形質になるので,【AA】=丸形,【Aa】=丸形,【aa】=しわ型となり,形質に注目して数えると丸形:しわ型=3:1になります。
【AA】や【aa】のように同じ遺伝子を持つものを『ホモ』といいます。一方,【Aa】のように異なる遺伝子を持つものを『ヘテロ』といいます。そして,【aa】のように劣性遺伝子が『ホモ』になったときはじめて子に劣性形質が発現することを『劣性遺伝』といいます。
伴性遺伝
前述の遺伝様式は,常染色体(性別決定に関わらない染色体)上の遺伝子に関する遺伝様式になります。一方,性別の決定に関わる染色体を「性染色体」といい,この性染色体上の遺伝子(特にX染色体)に関わる遺伝様式を『伴性遺伝(はんせいいでん)』といいます。伴性遺伝は,常染色体の遺伝様式を若干違いますので注意しましょう。
性染色体にはX染色体とY染色体の2種類が存在します。【XX】の組合せで女性(メス),【XY】の組合せで男性(オス)になります。
例えば,X染色体上にある疾患に関わる遺伝子があるとします。優性遺伝子Dは健常で,劣性遺伝子dは発病にかかわります。親として健常オス【XDY】と健常メス【XDXd】を掛け合わせたときに子の遺伝子がどうなるか考えます。それぞれから減数分裂でできる生殖細胞の遺伝子はオスは【XD】と【Y】,メスは【XD】と【Xd】です。それぞれの掛け合わせを考えると表の表になります。子の遺伝子は【XDXD】,【XDXd】,【XDY】,【XdY】となります。それぞれの形質は,【XDXD】=健常なメス,【XDXd】=健常なメス(ただし発病遺伝子を保有するため保因となる),【XDY】=健常なオス,【XdY】=発病したオスになります。このように,X染色体上にある遺伝子に関わる遺伝を『伴性遺伝』といいます。
Y染色体上にはほとんど遺伝子はないですが,Y染色体上にある遺伝子に関わる遺伝様式を『限性遺伝(げんせいいでん)』と言ったりもします。
特別な遺伝 ~母系遺伝~
その他特別な遺伝様式に『母系遺伝』というものがあります。母系遺伝は細胞の中に存在するミトコンドリアが関与します。ミトコンドリアの中にもDNAが存在します。受精はオスが作る精子とメスが作る卵子が合体することでおこります。卵子は1つの細胞であるためミトコンドリアを持ちます。精子にもミトコンドリアが含まれていますが,受精の際はミトコンドリアは卵子内に侵入出来ないため,子に受け継がれるミトコンドリアは全て母親由来のものになります。このことによって起こる遺伝を『母系遺伝』といいます。
この母系遺伝の理論を用いて人類の起源を探ろうとする研究もあります。
ちなみにミトコンドリアの働きは覚えていますか?ミトコンドリアは細胞小器官の中で,細胞内呼吸に関わりエネルギーを産生する場所です。以下に詳しい記事へのリンクを張っておきますので,不安な方はご参照下さい。
問題の解説
今回の問題では,『性別に関係無く』,『ホモ出なければ発現しない』遺伝様式を選びます。まず,性別に関係内ので,性染色体に関わる遺伝様式の伴性遺伝は消去されます(③,④は消去)。また,ミトコンドリアが関わる遺伝の母系遺伝も消去されます(⑤は消去)。残ったのは①常染色体優性遺伝か②常染色体劣性遺伝です。優性の法則より,優性形質はホモ【AA】でもヘテロ【Aa】でも発現できますが,劣性形質の【aa】はホモ出なければ発現出来ないので,答えは②の常染色体劣性遺伝となります。
解答 ②
遺伝の問題はなんかややこしく,パッとしませんが,基本的な用語の整理とメンデルの遺伝の法則についてはしっかりと抑えておきましょう。過去に実地問題で実際に子に生じる形質の比率を求める問題が出題されています。参考に乗せておきますね。
《参考問題》2019年実地問題 第4問
問 図はラブラドール・レトリーバーの毛色の遺伝様式を示したものである。Bb型の父犬と母犬から合計で12頭の子が生まれた場合,黒色の毛の個体は,理論上何頭生まれるか。ただし,対立遺伝子Bはbに対して顕性(優性),Bは黒色でbはチョコレート色を示す。
① 1頭 ② 3頭 ③ 6頭 ④ 9頭 ⑤ 12頭
答えは④の9頭になりますので考えて見て下さい。
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